いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が緑豊かな動物園の自然と動物について感じるままにシャッターをきり　書きとった「動物園歳時記」です

世界サル類動物園アフリカセンターで
穏やかな表情でくつろぐ「アキラ」
（平成１６年５月撮影）


チンパンジーの群れ五頭を率いるリーダーで、若メスの父親でもある「アキラ」は今年推定二十五才を迎えます。十六年前来園した当時は、美少年という印象でしたが、最近では頬から顎にかけて白いものが目立つようになりました。

チンパンジーの寿命は四十年から五十年ですので中年の域に入っているといってよいでしょう。群れで暮らすチンパンジーの世界では、リーダーになるならないは関係なく、オスはオスとして力強く生きる宿命を負っているようです。

毛を逆立てて少しでも身体を大きく見せること。木をゆすり、甲高い声を発して走り回るディスプレー。

飼育施設の鉄扉を断続的に（時には数分間も）叩いたり、蹴ったりして轟かす大音響。毎日のことなので私たち飼育係は「また始まった」「今日も元気でいる証拠」と解釈して平気に構えて見ておりますが、初めてご覧になられるお客様は度肝を抜かれ、とても驚かれるようです。

体調がすぐれないとこのディスプレーが長く続かず、迫力もありません。息子との関係で具合が悪くなった時には、精神的にもくたびれ果てて帰宅拒否に陥ったこともありました。

雷オヤジ的な性格だと云われることもありますが、スキンシップを図るべく毛づくろいに応じたり、娘に挨拶の仕方を教えたりと、リーダーと父親の役目をきめ細かく果たしているようです。

「婦人会長」の「アキコ」です。
もっとも身体が大きくまるっこい身体をもち、おでこが広いのでさがしやすい。
群れの中では時にリーダーの「アキラ」より影響力
が大きく、喧嘩の仲裁や屋内外への移動時に仲間を
リードする光景がしばしば観察されます。
一方、「アキラ」の良き相談役でもあるようで、
ふとしたことで「アキラ」が面子をつぶした時には
肩をたたいて慰めることもあります。
ちびっこ「シノちゃん」の教育係でもあり、また、
良き遊び相手でもあります。
群れのまとめ役として、隠れたキーマン（キーウー
マン）となっており、欠かせぬ存在ですね。
「たのむよ！アキコ」

茶髪の「ナオコ」の異名をもち、群れ内で異彩！？を放っております。
ここに来る前にはチンパンジーとしてではなく、人として生活していたようで、
チンパンジー語をまったく知らなかったね。
群れに入るのにとても長くかかり、仲間からの洗礼もたくさん受けました。
強靭な体力と打たれ強い性格が幸いして、飼育係も辛抱強く群れ融和に取り組むことができました。
私が入所間もない頃で、当時のことはとても印象に残っています。
名前の由来も私の名前から当時の飼育班長がつけました。
時々「立って」歩いたり、チンパンジーらしくない行動がまだまだ残っておりますが、
「群れに入れてよかったね！ナオコさん」

「アキラ」と「フジコ」の娘さんです。
1994年11月生まれで群れ内で一番の若さを誇っています。

人工哺育で育ち、また大病から生還し、いまチンパンジー社会のルールや言葉を学んでいます。
突然の発病に対して初診から彼女の獣医療面でのケアに関わりましたが、
同時に自らの限界を思い知らされることとなりました。

何度かめげそうになり、動物園獣医師の仲間の先生方や加藤園長には、
治療方針や治療方法について数多くの助言や励ましをいただきました。

しかしなんと言っても、彼女がここまで体力を回復し、群れ復帰に取り組めたのは、
努力を惜しまず看護し、群れ復帰の決断をした飼育係（Sくん、H班長、Y主任、T係長ら）の
成果であると心から尊敬しています。

風邪や小さなケガにはじまり、シノちゃんのQOL向上に対しては、
私がここにいる限り、できる限りのことをさせていただきます。
「ごめんね！シノちゃん。がんばれ！シノちゃん」

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